大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(く)197号 決定 1979年5月02日

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件各抗告の趣意は、申立人ら作成名義の「抗告申立書」及び被告人T作成名義の「上申書」に記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用する。

所論は、要するに、原裁判所は、昭和五一年七月一九日被告人らに対し保釈許可決定をし、昭和五四年三月二九日に至つて、「東京都立川市○○町△△番地所在のスーパーBの店舗付近でスピーカーで放送するなど、右店舗の営業を妨害する行為をしてはならない」旨の保釈条件を追加したのであるが、元来保釈条件は保釈許可決定と同時に付すべきであり、このように保釈許可決定の二年八ケ月以上も後に新たな保釈条件を付加することは違法であり、かりに条件の追加を条件の変更と解したとしても、変更すべき正当な理由がなくなされた違法なものであり、その内容も再犯防止を目的とした違法な条件であつて、かかる保釈条件を追加した原決定は違法である、というのである。

そこで、まず、いわゆる任意的保釈条件の追加、変更の適否について判断すると、任意的保釈条件は、保釈保証金と異なり、保釈の裁判の本質的内容ではなく、保釈後の将来を律するための合目的見地より設定されるものであるから、保釈後制限住居に変更があつた場合に見られるように、その追加、変更が所論のように許されないものではなく、これと同様に、裁判所が適当と認めて保釈を許した被告人についてまたはその影響下に事情が変更され、従前の任意的保釈条件ではこれに対処することができなくなつた場合には、保釈制度を、勾留に代るものとして、合目的的に適切有効に運用するため、右事情変更に即応して、任意的保釈条件の追加、変更が必要かつ相当とされる場合に限り、その追加、変更を認めるのが保釈制度の運用上有効適切であり、合目的的であるから、かかる場合の任意的保釈条件の追加、変更は正当として許容されるのであつて、所論のようにこれを違法とするものではない。

そこで、一件記録により調査検討すると、被告人Ⅰは建造物侵入、強要未遂、傷害、威力業務妨害、暴力行為等処罰に関する法律違反、同Kは建造物侵入、強要未遂、同Tは建造物侵入、傷害、威力業務妨害、暴力行為等処罰に関する法律違反、同Aは、建造物侵入、傷害、威力業務妨害、暴力行為等処罰に関する法律違反各被疑事件についていずれも罪証隠滅のおそれがあることを理由として勾留され、頭書各被告事件につき起訴された後、「証拠隠滅と思われるような行為をしてはならない」こと、そのほかの保釈条件を付されて保釈を許されたにもかかわらず、同被告人らは、その支援者ら多数の者と共に、本件公訴事実(住居侵入、威力業務妨害、傷害等)における被害者Sの検察官申請にかかる証人尋問終了後、昭和五二年三月から昭和五三年末までの間、多数回にわたり、同人経営のスーパーB(同公訴事実における犯行場所でもある)付近に赴き、スピーカーあるいはハンドマイク等で、「Bの経営者Sは刑事事件をでつち上げた。」「我々は総力をあげてSを追いつめる。」「我々を支援して下さい。」などと同店店員及び付近住民にしつように呼びかけ、「Sに怒りの声を!」などと題するビラを通行人に配付し、赤旗を同店前に立て、同人につきまとうなどの所為に出たため、同店の顧客がいやがつて寄りつかなくなり、営業に支障を来たしたことがうかがわれ、これに困惑した右Sは何度か警察、検察庁に対し苦ちゆうを訴えて取締りを要望したこと、他方、原裁判所は、昭和五四年二月二〇日第一六回公判期日において、弁護人側申請の証人として次回公判期日に右Sの証人尋問を行なう旨決定したことが認められる。以上の事実によれば、被告人らが、右Sの証人尋問の前後に、右店舗付近でスピーカーで放送するなど前認定の所為にでて、同店の営業を妨害する行為に出るおそれがあり、更に、そのような事態が起つた場合には同人の真実の証言を期待し得ないおそれのあることが推認されるから、このような事態の発生を防止するため、右証人尋問を控えて、右「店舗付近でスピーカーで放送するなど、右店舗の営業を妨害する行為をしてはならない」旨の保釈条件を付加することは、被告人らの保釈後同人らによつて惹起された事情変更に即応するため必要かつ相当な措置であつて、正当としてこれを許容しうるところであり、その保釈条件は明確であり、所論指摘の点を考慮しても、何ら違憲、違法とはいえない。要するに、原決定は、所論のごとく専ら再犯防止を条件としたものではなく、刑訴法九六条一項四号にいわゆる財産に害を加え若しくは加えようとする行為を未然に防止する措置であると解されるばかりでなく、「証拠隠滅と思われるような行為」の現段階における具体的特殊形態として、前記営業妨害行為(必ずしも刑法上の業務妨害行為と同一ではない)という形態による証人への不当な影響の防止をはかつたものであり、この意味において、全く新たな保釈条件の追加というよりは、むしろ当初に付された証拠隠滅防止の保釈条件を事情変更に即応させるため具体化してこれを付加したに過ぎないものとも解されるのであつて、これを違法、不当視すべきものではなく、所論指摘の判例は本件と事案を異にするから、それをそのまま本件に適用するのは適切でない。論旨は理由がない。

よつて、本件各抗告は理由がないので、刑訴法四二六条一項後段により本件各抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(金子仙太郎 下村幸雄 小林隆夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例